島田先生の掘削レッスン①:掘削技術の分類
掘削技術の分類
掘削(くっさく:土砂や岩盤を掘ることを意)の手法はスコップを用いて人力で掘削することから、大型の機械を用いて地下資源を開発する掘削まで幅広くあります。この専門学校では、後者の方法で坑井(こうせい:地面に掘ったあなの意)を掘削する技術を教えます。
この掘削くっさく技術には、坑井をただ掘るだけでなく、坑井を使用できるように仕上げる技術、問題が発生した坑井を修復する技術、坑井を保守管理し長持ちさせる技術、最後に坑井を廃棄するとき安全に埋め立てる技術が含まれています。これらの技術を施工するには、その目的に合わせて、必要な機器や資機材を準備し、坑井の位置に搬入・設置し、作業終了後は解体・搬出することが必要です。また、掘削時に得られた各種データの整理と解析も掘削技術に含まれます。
坑井の掘削は、エアハンマーなどの打撃力を用いたパーカッション掘削と、ビットといわれる切削刃を回転させて掘削するロータリー掘削があります。
このロータリー掘削には、石油・天然ガス井の掘削方式として発展してきた「ロータリー式掘削」と、地質調査や鉱山開発に用いられてきた「スピンドル式掘削」があります。
「ロータリー式掘削」はより大型な機械、大勢の人員、長い期間をかけて大掛かりな掘削を行います。
「スピンドル式掘削」はロータリー式掘削と比較すると小規模で機動性に優れます。
専門技術学校のコースに当てはめると
掘削技術専門学校は2期制(前期と後期)の学校です。コースは3コースありますが、前期は全コースの学生が合同でロータリー掘削の基本を学びます。
後期に入るとロータリー式掘削を学ぶロータリー掘削コース、スピンドル式掘削を学ぶスピンドル掘削コース、そして掘削管理者養成コースの3コースに分かれてそれぞれの技術を学びます。
坑井(こうせい)の深さ
人が掘削した最も深い井戸(坑井)は、ロシアのコラ半島にある深度12,261mの科学ボーリング坑です。この坑井は、1970年から2008年までかかって掘削しましたが、坑底(こうてい)の温度が約205℃になり、掘削が困難となったことから調査を終了しました。
わが国で最も深い井戸は、新潟県にある基礎試錐「新竹野町」の深度6,310mで、坑底温度は210℃です。
坑井内で確認できた最も高い温度は、岩手県の渇根田地域の地熱調査井WD-1aで、掘削深度3,729mで500℃以上の温度がありました。この温度は、対応できる坑内測定器が無かったため、合金の溶融状態から推定されたものです。
地球の表層である地殻の深さは30~50kmあるといわれており、深度12km掘削したといっても地球の表層の一部を掘っただけです。地球がリンゴの大きさであれば、まだリンゴの皮の下まで坑井を掘削できていないのが現状です。
君たちはもとより、人類は宇宙に行けても、地球の地下はまだ未知の世界です。
この原因の一つは、掘削技術が地下深部の環境に対応できていないことで、地震や火山などの防災、地下環境の有効利用のためには今後さらなる技術革新が求められることになります。
現代の掘削技術
宇宙開発では、月に人類が降り立ったのは1969年で、現在では宇宙に常時人が滞在でき、火星に探査装置が着陸し、調査をおこなっています。しかし、私たちが住んでいる地球の深部は、分らないことが多くあります。
現在の地球の深部構成は、地震波の伝わり方から判断されており、最近ではニュートリノを使用することもおこなわれています。
地殻と核の間にあるマントル層は、地球の体積の約8割を占めています。マントルの硬度や水分量などを知ることにより、大陸移動の原因や地球誕生の過程を知ることができるといわれています。
しかし、マントルまで掘削した坑井は無く、いまだにサンプルすら手にした人はいません。
国立研究開発法人海洋研究開発機構は、探査船「ちきゅう」によるマントル掘削計画「まんとるプロジェクト」を進めており、地殻の薄い海底下で、マントルまで掘削する計画です。
地下資源開発の種類
地下資源開発には、石油・天然ガス、石炭、地熱、各種金属、温泉、水などがあります。これらの開発には坑井を掘削することが必要です。
開発した石油・天然ガス井は、地域にもよりますが20~40年生産が続きます。
岩手県の松川や大分県の大岳の地熱発電所は半世紀以上発電を続けており、その間もメンテナンスをする掘削技術が必要です。
このように地下資源開発は、長期間継続して続き、掘削技術は開発時のみでなく、その生産や発電を維持・管理する技術としても必要となります。
日本人は、温泉が大好きな国民であるといわれていますが、この温泉を開発するにも掘削技術が必要です。温泉開発後もスケール対策や湯量維持のための坑井管理が必要なため、掘削技術が必要となります。